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マントをひるがえす男

【マントをひるがえす男】

今日CA(カリフォルニア)に住むだんなの親友、
ショーンから長距離電話があった。
だんなが出張中だと聞いてがっかりした様子。

この男に私は一度マジ切れをした事がある。
彼は見かけはジョージ・マイケル似のかなりいい男。

ネイビー・シールズと言ってデミ・ムーア主演の映画
「GI・ジェーン」に出てくる海軍特殊部隊に
難関を越えて合格したエリートでもある。

3年前、私はこの人に
“Don’t step into my life anymore.” 
私の人生に二度と踏み込まないで!
と思い切り電話で怒鳴ってしまった事がある。

I am sorry・・・
と悲しそうに電話を切った彼を今も思い出す。

彼は私とだんなの結婚前からの友人。
ハワイからの付き合いを数えると7年になる。

私たちがCAに引っ越した後、追うように
CAに越してきた彼。

それから更に私達との付き合いは深くなった。

私達の家に金曜の夜から日曜の夜まで毎週
お泊りに来る彼。

そして、
妊娠してからの私は次第に彼にイライラする
ようになる。

冷蔵庫の中の私の大切なピクルス(キュウリの漬物)
のビンに自分の股間をかきむしった指をズボリと
つっこんで断わり無しにボリボリ食べるわ、

厳しいシールズのトレーニングでぼろぼろになった
足や手の皮をむいてカーペットにポイポイ投げ捨てるわ、

とにかく信じられないマナーの悪さ。
しかし性格はいたって純粋、単純。

わかっていたから、
私は何も言わない優しい妻でした。

あれは忘れもしない、
家の息子が生まれた時。

陣痛の知らせを聞きつけて彼は病院にやってきた。

すぐに帰るものだと思った、
と言うか・・帰るのが常識だと思っていた。

陣痛がどんどんひどくなってくる。
背中をだんなにさすってもらいたいのに 
彼はずっとだんなと喋りっぱなし。

もちろん私には関係ない話。
一体この苦しい状況わかってんのかい?

やっと、
プライベートな分娩室に入る時間が来たので
私達はショーンに別れをつげた。

お産が長引いて翌日になった。
私が一番苦しい時だった。

“Hey man!”
と病室のカーテンの後ろで彼の声がした。

えっ??
ここは家族しか出入り禁止の分娩室よ!
私はまさに分娩中なのよ!!

私はシーツをギュッ~と引っ張って自分の
体をシーツで隠そうととっさに動いた。

看護婦さんが彼の声にびっくりして、
“あなた、ご兄弟ですか?ここは出入り禁止ですよ”
と追い出したから良かったものの。

一体この男は何考えてんだ??
非常識にも度を越えているんでないかい??

その後、緊急帝王切開になった私。
6/28の日記に書いたように私の息子は
ひん死の状態で生まれた。

息子が緊急治療室に運ばれ、
私のお腹がホッチキスでとめ合わされて、

パニックで大泣き状態の私のベットはまた
扉の方へガラガラと動かされた。

バタンと手術室のドアが開く。

またもや、
あの、あの男が立っているではないか!!!

誰も入ってこれないはずの
この手術室のドアのまん前に立っていた。

たったの今、
大手術を終えたばかりで半身麻酔状態で
シーツの下は全身はだかの私はなぜそこに
彼がいるか理解できなかった。

ドアの前にはカーテンでしきられている部屋がある。

そこで手術後のショック状態がおきないか心拍数が
図られたりの検査が始まる。

どうやら、彼は家族だと嘘をついて入ってきた模様。
だんなのとなりに椅子を並べ、又くだらない
話しを始めた。

「悪いけど少し静かにしてくれない?」

だんなを思い切りにらみつけた私。
“早くこの男に悪いけど外で待つように言えよ!”
って目線を送ったつもりだった。

また一方的な話しが始まる・・・
自分のトレーニングの事をだんなに聞いてもらいたくて
仕方ないようだ。

昔からとにかくお喋り好きで有名な奴。

メラメラメラ~~(▼▼メ) 
この時何かが私の中でパチンと切れる音がした。

「いい加減にしてよ!
赤ちゃんが死ぬかもしれないのに、
どうして今そんな話してんのよ!
おめ~ら二人とも、とっとと出てけぇ~~~~~ぃ!!」
(この時は英語か日本語かも覚えてない)

ど~らい大声で怒鳴って病院中の人がおののいた。
お腹が裂けるかと思った。

看護婦さんが
“静かにおねがいします!”

だんなもだんなだ!
今はそんな話は出来ないとどうして言わないの?

だんなはその場に硬直してたけど、
ショーンはまるで、マントをひるがえすように
すごい速さで出て行った。
(衛生上、手術服を着せられていたのね)

広い部屋からの出口まで3メートルはある。
彼の走る後姿が目に焼きついた。

この日からね。私が大和撫子を捨てたのは。
はっきりと嫌な事は嫌と他人にも言えるようになった私。
人間がかわった記念日とも言えよう。

アメリカ人ははっきり嫌な事を“嫌”と言えないと
テイク・アドバンテージと言って
ずけずけ人を利用する人が多い気がする。

しかし奴はちょっと違う。
ぜんぜん悪気はないただの無神経すぎる男。
これがまたやっかい!

退院後、彼の電話をとった私。
そして言ったの。
“Don’t step into my life anymore!”

家に泊りには来なくなったけど、やっぱり親友。
ほとぼりが冷めるとまた遊びにやって来た。

ハワイに引越して来てやっと奴から解放された
喜びに浸ってたけど、
何ヶ月か前に1週間この家に泊まりに来た。

それも笑える。
来る前にだんなが私にこう聞くの。

「ショーンがホテルに泊まると言ってるけど
どうする?」

奴がホテルに泊まるだって??
私にかなりを気を遣ってるご様子ね。
まぁそこまで気を遣える様に成長したのならと思い、

「いいわよ、ここに泊まっても」
と私は二人を喜ばせた。

それでどうなったかって?

飛ばされたわよ。また!
足の皮!
むいてはカーペットの上に投げまくる。

私は彼の目の前にほうきとチリトリを持っていき、
「あのね、足の皮はカーペットには飛ばさないでくれる?」

「それとね、便座をあげたら元に戻して頂戴ね。
夜中に私、便座なしで座っちゃったのよ」

と流暢な英語で言って足の皮を掃いたの。

"Oh! I’m really sorry!"

私も成長したなぁ~、って思った。
そんなざぁ~とらしい事出来なかったもんね。
3年前の私は!

彼の声を電話で聞くたびにあの日、
マントをひるがえす様に走った彼の姿を思い出す。

とにかく短距離選手並みの、ものすごい
速さだった。(笑)


★あ~すごく長くなっちゃった!
最後まで読んでくれてどうもありがとう!

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親友の一大事の日に何かをしたくて、
とにかく一緒にいたかったこのショーンという男。

だけど結果的に親友の妻に嫌われるという
最悪のパターンを迎えてしまった不幸な男の物語。

続編もどうぞ!
マントをひるがえす男が戻ってきたお話



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